*部下×雑渡 女性向け












 ぶっちゃけた話。俺の好みの女は哀れでかわいそうな女だ。
 戦国乱世という浮世の波にもみくちゃにされ、何もかも失って壊れる寸前の疲れきった女が好きだ。
 その感情は間違いなく、哀れみから生まれてくるもので、そういう女を見つけるとどうしよう無く支えになってやりたいと思ってしまう。それは一見思いやりあるように思われるが、そうやって哀れむことで、女を蔑み無意味な優越感に浸っているのも事実である。
「最低だよね」
 そのように感想を述べたのは、上司の包帯男。
 あまり人の事は言えたものじゃないが、そういう上司もなかなかどうして最低人間だ。
 何故なら、人が女と宜しくやっている所へいきなり乗り込んできた挙句、相手の女を殺してしまうもんだから、こちらとしては最低を通り越して、もう何がしたいんだかようわからん。
 つまり現在の状況はというと、全裸の女の死体と申し訳程度に襦袢を羽織った俺とこれ見よがしに返り血浴びて涼しい顔をしてそこに立っている上司と三人、いや、二人ということだ。
「そうは言ったってね、君。使い捨ての女にズルズル情なんぞかけても、男としての質は上がらないよ。っていう人生の先輩からの忠告」
「どうせなら、三禁に引っかかるとかもう少し忍びっぽいこと言ってくれません?一応お互いプロなんですから」
 愛し合っていた女を目の前で殺されて怒るどころか呆れかえっていられるのは、これが初めてではないからだ。もう何人もの女を上司によって殺されている。
 とはいえ、自分の情人の命を奪ってしまうような輩の元にいつまでも仕えているなぞ、普通なら正気の沙汰とはいえないだろう。俺がそれでもこの男の側を離れないのは、それなりに向こうに正当な理由があり、こちらに弱みがあるからだ。
「もちろん、”三禁”も含めて私は忠告しているんだよ」
 一つ目の奥がキラリと光ったので、今回はかなりご立腹の様子だった。
 俺が抱く女は決まって、仕事で利用するだけ利用した後に処分することになっている女だった。大概仕事に使う女は身寄りも無く、身体一つで生きているような奴で、それだけでも十分哀れな上に、いずれは殺されてしまうと思うと、ついつい情けをかけたくなってしまうのである。それを危険と判断した上司が、自ら処理を行っているのだ。
 それが向こうの理由。
「プロという認識を一応持っているなら、こういうことはやめなさいよ。何かがあってからじゃ済まされないんだからね」
 いいかい?と念押しをする上司は、口調は優しいが大分呆れ返っているらしかった。普段ならこちらが呆れてしまう場面が多いのだが、こういう逆の立場になるのは珍しい。というかまずありえないのだが。少しはこちらの気持ちも分かってもらえただろうか。分かっていないだろうな。などと、俺は全く反省はしていないし、別に後悔もしちゃいない。
 何故なら、全てはこちらの手の内だから。
「でも、そうやって組頭が毎回邪魔してくれちゃうもんだから俺は調子に乗っちゃうんですよ」
 俺は衣服を身に纏いながら、上司が酷く冷たい視線を浴びせてくるのを背中にひしひしと感じていた。何言ってるんだこのガキ、って顔してるんだろうな。
「嫉妬されてんのかなって」
 それがこちらの弱み。惚れた弱みって奴ですよ。
「何の話してるの?どうでもいいけど、ここの片付けやっといてね。私は帰るから」
 じゃ、と上司は風のように消え去り、俺の渾身の一言は物の見事にスルーされた。
「・・・・・・」
 残された俺は独り、敵わないなぁ、と一つ息を吐く。












恋は二人のエゴイズムだ


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