*44巻ネタバレ雑→伊+伏木蔵





「こんなもん?」
 伏木蔵はそれはそれは不思議そうに首をかしげる。
「君さぁ、あんまり人の名前間違えると嫌われるよ」
「大丈夫です。友達はたくさんいますよ」
「・・・・・・」
 対する雑渡は疲れ切った溜息を漏らす。
「もう、君いいからさ。伊作くんはどこかな?」
 とりあえず目の前の少年は無視して、雑渡は当初の目的を果たすことにした。それはこの忍術学園保険委員会の委員長に会いに来たことなのだが、いつもいるはずの時間帯に彼は居らず、その代わりに顔色の優れない一年生の鶴町伏木蔵がいたと言うわけだ。
「伊作先輩は各学年の厠のトイペチェックに行っておられます」
「いつもはこの時間にやらないのにどうしたんだ?」
「?どうして伊作先輩のトイペ係の時間を知ってるんですか?」
 純粋な子供の疑問にしまったと言葉を詰まらせる。まさかストーカーしてるからと言う訳にもいかず、間を持ってから最高の答えを見つけ出した。
「それは私がプロの忍者だからだよキラッ☆」
「・・・・・・・・・・・・へぇ・・・・・・」
「なんだその間は・・・・・・」
 自分の仕出かした事なのに、相手の反応の、あまりの薄さに急激に恥ずかしくなる雑渡だった。
「僕、暗い性格だから明るく振舞われるとどん引きなんです」
「ああ、そう・・・」
 何故かどっと疲れてしまった雑渡はその場に居座り、「しばらく待たせてもらうよ」と言いつつも、伊作が早く戻って来てくれないかと願う。
「あ、じゃあお茶入れますね」
「おかまいなく」
 しかし雑渡はある重要な点を見落としていた。それは、ここが忍術学園一不運の集まる保険委員会の巣窟である、ということに。
「お茶入りましたー」
 パタパタと、お盆に湯飲みを乗せてやって来る伏木蔵。彼も一年生とはいえ、立派な不運であった。
「あ」
 何もないところでド派手に転ぶ。お盆のお茶はというと、それはもうお約束と言わんばかりの、物の見事に雑渡に降りかかった。
「うわあああ!!!ごごごごめんなささささいいぃぃ!!!!」
「いや、いいよ。このくらい平気だから(無茶苦茶熱かったけど)」
 日々の鍛錬のおかげか、はたまた毎回伊作に(意図的に)熱い茶を零されているおかげか、雑渡は熱さを物ともせずに平然としていた。しかし服が大分濡れてしまった。
(乾くかなぁ、これ)
 と思った矢先に伏木蔵がゴシゴシと雑渡の服を拭き始めている。
「ちょ、何してんの、君・・・」
「は、早く乾かさないと風邪引いちゃいます!!」
 言いながら慌てて雑渡の服を脱がそうとしている。
「そこまでしなくていいって」
「駄目です!保健委員的な意味で!!」
 伊作のポリシーが一年生までにしっかり伝わっていることは素晴らしいことだが、ここまでされると余計なお世話と言うもの。雑渡は弱ったなぁ、と押し問答を繰り返していると、伏木蔵が先程零したお茶に足を滑らせ、そのまま前のめりに倒れる。巻き込まれた雑渡は倒れてくる伏木蔵を受け止めつつ背中から床へ倒れた。それはあたかも伏木蔵が雑渡を押し倒したような形になり、更には倒れた勢いで雑渡の上着が引っ張られ肩まで露にされてしまった。
「大丈夫かい?伏木蔵くん」
「ごごごごめんなさいいいい!!!」
 数々の不運に伊作のお客さん(だと思われる人)に迷惑を掛けてしまった事を申し訳なく思ったのだろうか、伏木蔵は泣き出して、さらに顔色を悪くしている。
「大丈夫だからとりあえずどいて」
くれないか。と言おうとしたが、ずっと待ち望んでいた気配がいきなり現れたことで言葉が詰まってしまった。その気配の主である伊作が保健室の入り口に無言で立っており、雑渡がそちらへ視線を向けると抱えていたトイペをドサドサと落とした。
「・・・な、に、してるんですか・・・・・・雑渡さん・・・」
 明らかに禍々しい負のオーラが伊作の背中から漂っている。では、現在の状況をコピー&ペーストで確認してみよう。
<開始>それはあたかも伏木蔵が雑渡を押し倒したような形になり、更には倒れた勢いで雑渡の上着が引っ張られ肩まで露にされてしまった。</終了>
 おまけに伏木蔵は泣き顔だ。全く持って最悪だった。
「伊作くん、これは誤解だよ」
「普段は15才男子に現を抜かしている40代独身の寂しいおっさんが上半身裸のまま、いたいけなお子様忍者を上に乗っけて何言ってるんですか・・・・・・」
「事実が事実なだけに何も言い返せない哀しさよ・・・」
 ハイトーンで捲くし立てる伊作のオーラに圧倒されて、若干傷つきながらも嫌な汗が雑渡の額を流れていった。
「私だけに危害を加えているうちはよかったのに・・・」
「危害じゃなくて愛情表現だよ」
「可愛い後輩に手を出すなんて言語道断だ!!!」
「だから誤解だってば」
「黙れ、下司が・・・」
「君、キャラ変わってるよ」
 そんな二人のやり取りを見て、未だに雑渡の上に乗っかっている伏木蔵は委員長の尋常じゃない怒りっぷりにすっかり怯えて、ついには泣き出してしまった。
「い、伊作先輩・・・・・・こ、こなもんさんはわ悪くないですぅ・・・!」
「伏木蔵!?」
「昆奈門だってば」
 雑渡の突込みなどもはや誰も聞いてはおらず、伊作は泣き喚く伏木蔵に駆け寄ろうとした。が、彼こそ忍術学園一不運な男。自分で落としたトイペを思いっきり踏んで、それはもう盛大にスっ転んだ。そして縁側の角に後頭部を強打する鈍い音。
 伏木蔵は泣き止み、雑渡は目を丸くする
「いい伊作先輩!しっかりぃぃ!!」
 伏木蔵が駆け寄り、どうやら意識は失っているが生きているらしいことを確認すると、雑渡はむくりと起き上がって呟いた。
「もう、帰ろう・・・なんか疲れたし」
 これ以上ここにいては自分も不運になってしまうと痛感し、いそいそと身支度を整える雑渡であった。












保健委員的ストーカー撃退法


あとがき。
44巻の4コマを元ネタにふし雑で書こうと思った結果がこれだよ・・・。どこがふし雑?上下ってだけじゃないか。
途中まではふしに変なところ触られて妙な気分になる雑渡さんのつもりで行こうと思ったんだが、ろ組の子が可愛すぎた。いつかリベンジします。させてください。
勝手に雑渡さん40代設定もご容赦を。

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