何番煎じになるか分からない32巻ネタ。 優作兄さんが激しくキャラ崩壊してます。 相変わらずの超展開。 「利吉のイライラの段」 売れっ子エリート忍者の山田利吉は仕事の合間を縫って、ドクタケ城の出城の件で世話になった小松田優作のところへ挨拶に来た。その件については、落・乱コミックス32巻をご覧頂ければわかるだろう。ちなみに優作とは忍術学園の事務員小松田秀作の兄で、扇子屋『小松田屋』を継いでいる。 へっぽこ事務員小松田の兄と言うから、どんな人物かと見てみたら、扇子屋の仕事にプライドを持って取り組んでいる真面目で面倒見のいいお兄さん、といった感じだ。が一見しただけでその人の全てを語るなど愚の骨頂。優作は、殊に弟の事ととなると異常なまでの執着を見せるということを利吉が知るのは、正にこれからのことだった。 「おとといきやがれ」 『小松田屋』の屋号の前で、利吉は挨拶もそこそこに、店の主である優作にそのように突き返され、リアクションに困っているところであった。 誰がどう見たって、明らかに利吉に対して怒りを露にしている優作だったが、利吉には彼を怒らせてしまった原因が分からない。やはり優作の姿を借りてやりたい放題し過ぎたのであろうか。しかし何も問題ある発言はしていない。ただ彼の弟を少し怒鳴り散らしてしまったぐらいはあるが。 「それもあります。しかし私が怒っているのはそのことじゃない」 (読まれた!?) 何故か心の中を読まれた利吉は、少し警戒心を持った。そしてただの扇子屋に読心されたことに忍びとしてのプライドにちょっと傷をつけられつつ、優作に先を促した。 「何をそんなに私は怒らせてしまったのでしょうか?」 「問題なのは、落・乱コミックス32巻87ページの最後のコマで、私の姿をした貴方のセリフ・・・」 それは、忍者の基本である『※離行の術』を知らなかった秀作に向けられたセリフ。お持ちの方はコミックスを開いてみてみましょう。 『高い月謝を払って町の忍術塾に通わせたのに・・・』 「秀作を忍術塾に通わせたのは私であって、貴方ではなァァァいィィィィィィィ!!!!!!」 「・・・・・・」 利吉は、何を言われたのか一瞬理解できなかった。どんな失態をしてしまったのか、と覚悟していた分、その反動で当たり前すぎる優作の言葉を脳内が許容し切れなかったのだ。 利吉が口を開けて呆けている隙に、優作は憤慨して畳みかけた。 「同じく、91ページの最後のコマ・・・可愛い弟を呼び捨てにしましたね・・・『秀作』と・・・」 とてつもなく黒くて禍々しいオーラをバックに背負った優作は、いくら死線を潜り抜けてきた利吉でも、否、いくつもの死線を潜り抜けてきたからこそ、悪寒が走り、これは不味いと危険信号を放つ。 勿論、上記のセリフも呼び捨ても、あくまで優作に化けた利吉であるからして、敵や味方を欺くための言動故に、仕方の無いことなのは、誰もがお分かりであろう。しかし今、目の前にいる人にはそれが理解できなかったらしい。ということで利吉は、怒りを沸々と湧きあがらせる優作を押さえようと、胸の前で手を挙げる。 「まぁまぁ、お兄さん・・・」 「貴方の兄になった覚えは無い!!!!」 優作の怒声に思わず驚いてしまい、あまりにもベターなセリフと展開に既視感を覚えた。 (まるで娘との結婚を父親に申し込みに来ている気分だ・・・) 『お父さん、娘さんを僕に下さい!』『お前に父と呼ばれる覚えは無い!』という例のやりとりである。いやいや、まてそれはおかしい。自分は忍務に協力してくれたお礼に来ているのではないか、と危うく利吉は己の目的を失うところであった。 思わぬ利吉の失言に怒りのゲージがマックスになってしまった優作は、身構えて怨みの言葉のように利吉に告げる。 「私と弟に対する数々の辱め・・・晴らさせていただきます・・・」 「辱めって・・・優作さん・・・?」 町の扇子屋さんとは思えない殺気に、売れっ子忍者の利吉も額に汗を浮かべて後退る。 「小松田家の名にかけて・・・貴方を扇子の骨組みにしてやる!!!!!!」 「骨組みって・・・うわっ!?」 言葉とともに利吉に向けて放たれたのは『小松田屋』の商売道具である扇子だった。忍びの感で利吉は、ギリギリのところで後退してそれをよけると、扇子は手裏剣のように鋭く利吉の立っていた地面に突き刺さる。 (なんて素晴らしい手裏剣裁き・・・扇子だけど・・・) プロの忍者である利吉が息を飲み、嘆息してしまうほど、優作の腕前は扇子屋にしておくには勿体無いものだった。弟の秀作ではなく、彼が忍びを目指したほうがよいのではないだろうか。なんて小松田君に悪いか。 そんなことを考えているうちに、優作は次の扇子を繰り出そうと構えている。利吉も応戦体制に入るものの、完全に我を失っているとはいえやはり相手は一般人。事務員小松田の実の兄である。どうしたものかと小さなため息を吐いた時だった。 「利吉さぁ〜ん!お兄ちゃぁぁ〜ん!!」 遠くから聞こえてくる間延びしたその呼び声に、非常に聴き覚えがあった。 「秀作!!」 声の主を呼んだのはその兄の優作だった。向こうから忍術学園事務員の小松田がこちらに向かって走ってくるのが見える。そして息を切らしながら、二人の間に立ちはだかり、優作のほうを向いた。普段の緊張感の無い顔とはうって変わって、何時になく真面目な面持ちの弟に、優作は驚きをあらわにして問いかける。 「秀作、どうし」 「お兄ちゃん!僕がお兄ちゃんの偽者に気づかなかったからって、利吉さんに当たらないで!」 (なにっ!?) 優作とほぼ同時に小松田の後ろに立つ利吉も驚く。まさか八つ当たりされているとは露にも思わなかった。 「利吉さんは何も悪く無いんだからぁ!!」 「秀作・・・」 利吉を必死に弁明する小松田の姿に、兄優作だけでなく、普段かなり迷惑をかけられている身の利吉も、心を打たれるものがあった。今回優作に牙を向けられた原因が小松田であることをすっかり忘れて。 弟の言葉に改心した優作は、先程の怒りもどこ吹く風で、いつもの扇子屋の若旦那に戻っていた。 「利吉さん、無礼の数々をお許しください」 深々と頭を下げる優作に、ぶっちゃけ面倒くさい兄弟だなぁと思いながらも、笑顔で首を振った。 「いえ、こちらこそ誤解を招くような発言をしてしまって申し訳ない。私は、これで」 これ以上の関わりは控えようと、早々にその場を立ち去るため、利吉は踵を返す。数歩歩いて、肩越しに小松田のほうへ振り返った。 「小松田君。忍びになる前に、優作さんをもっと大切にするんだぞ」 薄く笑って、再び前に向き直って歩き出すと、「利吉さん!」と小松田の声が呼び止める。 「出門票にサインしてください!!」 確かに今日忍術学園に寄ったが、それは今言うセリフなのか。本当にめんどくせぇ、こいつ。と焦燥を募らせる山田利吉18歳は、超売れっ子のフリーのエリート忍者である。 *** あとがき。 優作兄さんのほうが忍びとして優れてましたって落ちなのかと思ってたら、なんだ、ただの利吉か。っていう落ちに嫉妬してついカッとなってやった。一応利こまのつもりです。『貴方の兄になった覚えは無い!!!』ってとこが。 小松田に冷たい利吉も好きだが、小松田に鼻血だらだらしてる変態な利吉も好きやがな。 ※『離行の術』・・・忍者が大勢で忍び込むとき、一番腕のいい者が最初に忍び込み、下手な者が最後に忍ぶ。出るときはその逆で一番下手な者が先に出る。 |